薄層クロマトグラフィー(Thin Layer Chromatography: TLC)は,最も基本的で簡単なクロマトグラフィーの一つである.一般的なTLCは,ガラス板かアルミの薄板に,固定相となる吸着剤を塗布したもので,吸着剤の種類を選択することで様々な試料の分析に適用できる.TLCによる試料の分離,分析は,板の下部に試料をスポットした後,溶媒をプレートの下端より染み込ませることで行う.この操作を展開といい,展開に用いられる溶媒を展開溶媒という.なお,展開を行う際は,展開溶媒が蒸発することによる影響を受けないように,展開溶媒の蒸気が飽和した密閉容器中で行う.また,展開溶媒の界面がスポットの位置より上になるような条件で展開を行った場合は,正しい結果が得られないばかりでなく,展開溶媒を試料で汚染することになるので注意すること.展開に伴って試料に含まれる化合物もプレート上方へと移動するが,試料中の各々の化合物が移動する度合いは,その種類により異なるので,展開することで試料中の複数の成分を分離することが可能となる.化合物が移動した距離を溶媒が移動した距離で割った値をRf値といい,展開の条件が一定であれば,をRf値は化合物ごとに決まった値をとるので,化合物の同定の目安となる.それぞれの化合物がTLC上でどの程度移動したかは,スポットを目視で確認することで知ることができる.化合物自体に色が着いていない場合には,紫外線を照射したり,発色剤を用いて呈色させるなどして確認する.紫外線の照射による確認は,対象とする化合物が,紫外領域に吸収を有する場合に有用な方法である.紫外線ランプを用いて固定層に蛍光剤を混ぜたプレートに紫外線を当てると,紫外吸収を有する化合物の存在する部分を残して蛍光がみられるため,化合物の位置が特定できる(図1).
図1.紫外線ランプとスポットの検出.
TLC操作の手順
- 展開槽に展開溶媒を高さが3 mm ぐらいになるように入れ,ふたをする.
- TLC板を用意し,それぞれのTLC板に下から0.5 cmの位置に鉛筆で薄く線を引き,中央に印をつける.
- 印の位置に溶液をキャピラリーでスポットする(図2).
- ピンセットを使って,液面がスポットより下に来ることを確認しながらTLC板を展開槽に入れて,静かにフタをする.
- 溶媒がTLCプレートの上端から約1 cmあたりにしみ込むまで展開する.
- 展開が終わったら,ピンセットを使ってTLCプレートを取り出し,溶媒がしみた位置に軽く印をつける.ドライヤーを使ってTLCプレートを乾燥させる.
- 展開し終わったTLCプレートにスポットよりRf値を計算する.必要に応じて紫外線をあて,スポットを浮かび浮かび上がらせる.
図2.TLCの展開.
動画教材:TLCの手順